jouno

超短編

牢獄がある。だがそれは牢獄の廃墟で、彼の背後には壁が崩れ、鮮やかな月光が外から射している。
 
男は背後には目もくれず、鉄格子と、鉄格子の向こうの看守の影(それも実は骨となった死骸に過ぎない)をまばたきもせず見つめている。両手で、男は捧げ持つように受話器を握りしめ、縦に持った上側の口へと平坦な口調でうねるように何事かを延々と話している。その受話器から伸びるコードは壁まで伸びているが、そこで断ち切られている。繋がる先はない。
 
・・・・・・そういう夢を見たんだ。そこではおれは妄想にとらわれた猿に過ぎなくてずっと相手もいないのにしゃべり続けている。繋がっていないのに気がつきもせずに、牢獄の堅固さを疑いもせずに、しゃべるのを止めることができないんだ。そうだ、知っているか、神は死んだんだが、自然死じゃない、十二人の天使の秘密最高委員会が議定書を発して削除してしまったんだ。そうだ、夜にもなれば奴らはドアを叩く。ドアというドアは淫売のようにたやすく身を開く。おれは恐ろしい。地底帝国の自動書記機械が僥倖の夜に紡ぎ出したサミズダートに記された秘密をやつらが嗅ぎつけるのが恐ろしい。そのまきぞえで地底帝国は無数の烏によって食い荒らされて滅んでしまった。だがそれでもおれはしゃべり続けている。待ちつづけている。だが何を待っているか分からない。それでも待っていなければならない。誰が禁止しているわけでも命じているわけでもない。待っている。それでもしゃべることをやめることができない。待ち続けている。

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