佐藤弘夫『偽書の精神史』

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yanoz

佐藤弘夫『偽書の精神史』

中世の日本では、聖徳太子が予言した通りに事件や戦乱が起きている、というような偽書が膨大に流通していたという。

その背景に、古代とも、近世とも違う、中世という時代の信仰世界があったと指摘する一冊。

鎌倉新仏教と、それ以前から成り立つ日本の仏教とが、中世においては、超越的な仏と直接交わるような信仰体験を重視する点で共通していたという指摘は、なるほど精神史的な描像。

(本覚思想と新仏教の類縁性の源として、神仏冥界が渾然として生活が成り立つ中世的なコスモロジーが見出される)

その背景に、霊的な世界との繋がりを国家の権威が独占しようとした古代と違って、国家体制が解体して、誰しも神や仏の声を夢に聞くことが出来た中世の精神世界があった論じる。

一元的な国家制度が無く、諸勢力が入り乱れているところに、近世や古代と違う中世のつかみにくさがある、としながら、偽書を生み出した土壌に、中世を特徴付けるものを見いだすという論旨。

わらしべ長者も、こういう中世的な精神を寓話にしたものだったとのこと。なるほど。

法華系の信徒の方が推薦していたのを見かけて読んで見たが、たしかに日蓮についての記述が厚い。

例えば、日蓮に託して後に書かれた偽書がどのように生まれたのかをその背景から理解しようとする、といった話は、歴史的な真偽を批判するだけでは終わらない意義があるので、教学論争という形で党派の対立に終始するような姿勢を乗り越えて信仰を掘り下げることにつながるというわけだった。

親鸞や日蓮が、仏から使命を告げられたと確信できた時代精神というのがどういうものだったか、少し感触がつかめた気がする。

本地垂迹的な世界の見方が中世的に展開したとき、どのような時代を成立させていたのかという描写も興味深いし、中世に成立した神道理論の背景に、伊勢神宮内の勢力争いがあった、という話なども、伝統に対する批判的視座を養う上で有益な読み物だと感じる。 (続きを読む)
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